CD評 〜ペパーランド〜
森高千里
(1992年発売)
  1. ペパーランド
  2. どっちもどっち
  3. 頭が痛い
  4. サンライズ
  5. ロックンロール県庁所在地
  6. 雨の朝
  7. 常夏のパラダイス
  8. Uターン(我が家)
  9. ごきげんな朝
  10. ロック・アラーム・クロック
  11. 青い海
〜BOOKOFF Series#4〜
現在発売の新譜や歴史的名盤などの影で、
中古CD専門店はともかく、場末の古本屋や
大手リサイクル系のチェーン店などで、
特価セールや100円程度の投売りなどの、
憂き目に会っている名盤(と私が勝手に思っている)を
文字通り"掘り起こす"シリーズ。
しつこいようですがシリーズ名に他意はまったくございません。


何ヶ月か前、知人と音楽の話をしていまして、
多くは知人が私に「あの音楽、ミュージシャン、演奏などはどう思うか?」
って感じで会話は進んでいきました。

その中で「森高千里のドラムってどう?」って質問があって、
知人曰く「凄いって言う人もいるけど、実際のところ上手くは無いンでしょ?」
...ちなみに知人は実際に音源などで”それ”を確かめたわけでもなく、
推測だけで言っております。
ハイ、そうです、憶測で物事を推測するのはいけませんよね(笑)

で、私の答えはこのアルバムです。
某ブッ○オフでは”末端価格”250円での代物です。

このアルバム、全曲のドラムをご本人が担当されてます。
所々でベース、キーボード、ギター(リードも!)も演奏されてます。
シングルでいいますと、
「私がオバさんになっても」と「渡良瀬橋」の間辺りで、
このアルバムでのシングル・ヒットが無いってのもあって、
そう目立っているアルバムでも無いようです。
(とはいえ、M-5はシングルのカップリング曲として、
更には、ハロプロ御用達の一曲にもなりましたケド)
それまでのキュート路線とその後の路線
(何て名づけたらいいかわかんない)との過渡期的な作品なんでしょうか。

で...ドラムですか(このレビューは”これ”を中心に行います)
あ、私は多少ドラムの心得があるのですが、
発売当初この作品は(身内関連レベルではありますが)
ドラマーはもとより他パートの楽器演奏者達の間でも、
話題に上がることが多かったのです、
で、私、多少は懐疑的な気持ちも含みつつ、
このアルバムを聴いてみました。

1曲目の最初こそ、特に何の感想も思い浮かばなかったけど、
その1曲目の途中から「ん?」って印象を受けて、
2曲目で、その「ん?」は実感に変わりました。

「こんな”飄々”とした8ビート、聴いたことが無いわ!」

それが私の感想でした。

機械的にならず、けど過度に感情(エゴと言ってもいい)を込めずに、
各楽器、歌唱のことを考えつつ支えつつ、けど”自分がドラムを叩いている意義”
を感じつつ、ドラムを叩くというのは、例えテクニックある人でも、
そうできるもんじゃ無い(と、思う)んですが、
彼女はそれを当たり前のようにこなしているという部分に感銘を受けました。

で(これが凄く凄く大切なんですが)凄くドラムの音が”女性っぽい”のです。
凄く母性を感じるドラムで(勿論本人が歌っているのもあるんでしょうが)
歌を背後から包み込むような演奏、そんなイメージを感じるんですよね。
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのモーリン・タッカーも然りですが。
世のドラマーの皆様、女性が叩くドラムは根底から”そこ”が違いますので、
このアルバムから学べる点は多々多々あります。

ま、随所に指摘されているリンゴ・スターの影響はありますね。
スネアの16分の叩きとか、バスドラの2連打の”味”とか、
このアルバムの前後にビートルズCDなどでロック・ミュージックの勉強(?)
を”通過”してらしたようでありまして、ドラムのモチーフにも
「それ」が現れてきたんでしょうか。
(元々歌詞の世界はビートルズ的な”何でもネタになる”の人でしたけど)
そのドラミングですが恐らく”しっかりと勉強した”基盤を、
本能的に処理して仕上がったのがそのスタイルなんだと思います。
凄くマジメなんだけど”身体に入り込んでいる”感が強いんですよね。

それが感じられる10曲目。ロックンロールの基本であるシャッフルと
8ビートが交互に展開される曲なんですが、シャッフルの「あしらい」が、
驚異的に上手いんですわ。「上手くノリを作ろう」って力みが一切感じられない、
自然な”ハネ”の感覚と、スクエアな8ビートとの叩き分け....凄い。

このアルバム、プロダクションも相当”偉い”と思います。
それまでの確信犯的なアプローチを敢えて制御して、
後に繋がる彼女の”路線”の布石を打ちつつ、
サウンドとしては相当大胆なアプローチもしています。
(ドラムを左チャンネルに集めたり、タムの音色、シンバルの処理など...)
これが確信犯だとしたら、ジョージ・マーティン並の貢献度です(笑)

彼女のキャリアの中では「陰」に属する作品なんでしょうが、
それまでの「女性なのに陽」の路線が続いた彼女にとって、
「確信犯なんだけど等身大」という
「それまでは」小泉今日子さんがやってきて、
「その後は」PUFFYあたりがやってきたこと、
それを一人の女性が短期間で次々に展開していったことは、
賞賛すべき事項だったと思います。

あ、「ロックンロール県庁所在地」では、我が山梨の甲府で、
「ほうとう」のコーラスを連呼してくださって有難うございます(笑)

最後に、このアルバム、モノクロのジャケットが素敵です。
「今まで」と「これから」の間に佇む「いい女性」の顔をしています。
(次作のLucky 7ではもう”突き抜けた”表情になってしまいますから)
(2007.09.03)
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